青木辰司(東洋大学名誉教授) ・熊本豪雨から5年~映画作りで被災地に寄り添う
令和2年7月豪雨では熊本県南部を流れる球磨川の氾濫で熊本県の人吉球磨地方は大きな被害を受けました。 この災害から立ち上がろうとする人たちの苦悩を、人吉市出身の俳優中原丈雄さんの主演で描いた映画「囁きの河」が完成し、各地で上映されています。 この作品のエグゼクティブプロデューサーを務めたのは日本のグリーンツーリズムのけん引役東洋大学名誉教授の青木辰司さんです。 20年を越える人吉球磨地方とのふれあいで積み上げてきたものが、災害からの復興を応援するエネルギーになりました。
映画「囁きの河」、映画の舞台は熊本県の人吉球磨地方です。 日本3大急流の一つ球磨川は令和2年7月豪雨で氾濫、多くの人命が奪われ住民は住宅や店舗、施設、道路、鉄道など生活の基盤を失いました。 この映画は今もなお水害の爪痕で苦しむ人吉球磨地方で復興への道を必死に歩み続ける人々の生きざまを描いた作品です。 主人公は一度故郷を捨てた船頭を演じる地元人吉市出身の中原丈雄さん他に清水美砂さん、三浦浩一さんほか。 自然災害の恐ろしさ、親子の関係、地域の人たちとの人間関係を含め、復興への道は厳しく平坦ではありません。 監督脚本は元NHKプロデューサーの大木一史さんが担当しました。
熊本県人吉市、熊本市で先行上映しましたが、想定外の入りでした。 これから全国興行します。 グリーンツーリズム、ヨーロッパでは農村でのツーリズムを言われていた。 1980年代から自然を生かした農業、自然を生かした景観、文化、とかトータルで言うとグリーンな文化、グリーンなライフスタイル、グリーンな食とか、意図的にグリーンをルーラルツーリズムの中に意味付けしてきたのが、グリーンツーリズムのヨーロッパの始まりでした。
日本でも、もう一度農村を活性化するという意味でグリーンツーリズムをまずは東北の皆さんに呼び掛けました。 何よりも農家の女性の反応が鈍かったです。 副収入、女性の直接的な収入に繋げていきたかった。 岩手県の遠野で研修会をやりました。 70人ぐらい集まり盛り上がりました。 東北6県を回りました。 九州でも声がかかり全国的に展開しようという事で、NPOを立ち上げ第一回の大会を2004年に熊本県の水俣でやりました。 人吉でもグリーンツーリズムを立ち上げたいという事で繋がることになりました。 人吉は絶好の場所だと思いました。 2004年から84回の付き合いになりました。 他の市町村も一緒にやろうという事で全市町村にグリーンツーリズム研究会を立ち上げてもらいました。 広域連携型グリーンツーリズムと言うのは日本では人吉しかないです。 実は水害の時にもこれが大きな力になりました。 球磨川の一市、二か村が集中的にやられました。(人吉市、山江村、球磨村) 上流の人たちが支援しました。 グリーンツーリズムで培った絆ですね。 今も凄いです。
調査によってその地域を変えてゆく、実践型社会調査をずっとやってきました。 地元の人たちは東洋大学の学生たちに感謝してくれました。 学生と祭の再生の企画を行いました。 都会にない農村の価値に学生が気付いた時にいいところだという事が初めて判る。 何が一番外から来た人たちの思いが、地元の人たちに取って感謝になるか、考えましょうと、これは復興支援にも言える事です。 本当に地元の人たちに取って有難い支援になっているかどうか、こういったことがグリーンツーリズムの基本の理念になります。
「かわがあふれた!まちが沈んだ日 生きる力をくれたキジ馬くん」(人吉球磨の水害をテーマにした絵本) キジ馬は子供の成長を願う人吉の郷土玩具。 700~800kgのキジ馬くんが置いてあったが、水害の時にさらわれた。 八代海に浮かんでいることが判り、生還した。 是非このことを絵本にしてほしいと頼まれて、絵本作家に相談して描いていただきました。 この絵本がきっかけとなり、映画製作に繋がって行きました。
文明の発達と水害は表裏一体であるという認識を深めないといけない。 我々の身の廻りにある自然、地球の変化と言うものに疎くなっている我々が、災害被害をどうやったら最小化できるか、と言うテーマがあるなと思いました。 我々が自然とどう向き合い、自然をどいう風に保全してゆくか、と言うテーマを是非この映画を通して、考えていただく或る意味防災の教材でもあるし、環境保全のテーマでもありうる。 フィールドワークも地元に還元するものでなければいけないと思います。 私がお返しとしてできたのかなあと思うのは、人を繋ぐという事だと思います。