溝渕雅幸(映画監督) ・命のバトンを渡す時
溝渕さんは福岡県生まれの62歳。 大学を卒業後新聞記者などを経て映像制作の道に入りました。 これまで終末期医療や在宅医療の現場を取材して、テレビや映画で伝えてきました。 今月10日からは最新作のドキュメンタリー映画「近江ミッション願いと祈りと喜びと」が公開されています。 これは滋賀県近江八幡市にある病院のホスピス病棟を中心に余命宣告を受けた患者たちの最後の願いとそれを叶えようと力を尽くす医療従事者たちの姿を捉えたものです。 溝渕さんは何故命の現場を撮り続撮るのか伺いました。
ドキュメンタリー映画「近江ミッション願いと祈りと喜びと」は命の限りが見えた人達の日常、と言ったものです。 人は常に希望とか願い、喜びとか祈りを持っていると思います。 命の限りが見えた時に その希望とか願い、喜びとか祈りとかはどういうものなんだろうと。 多くの人たちは死にたくないとか、病気を治したいとか、もう少し生きたいとかを最初に思い浮かべると思います。 死を目の前にしても持つ願い、それが叶った時の喜び、それが幸せの重要なポイントになるのではないかと思います。 ホスピスから簡易病棟に家って退院して自宅で過ごして最後を迎えることもあるし、自宅で過ごしても容態がよくなくなって又病棟に戻ってと言う事もあります。 今回の映画はホシビス病棟が中心ではあるけれども、在宅という面もあります。 クランクインが2022年11月で、アップしたのが2024年6月末です。
2013年『いのちがいちばん輝く日 あるホスピス病棟の40日』の映画と同じ病院です。前回はホスピス病棟だけの「希望館」という建物でした。 新築移転に合わせて2022年11月から今回入りました。 ホスピスケアのマインドがどのように受け継がれてきているかを観察するつもりでした。 クランクインした最初は絶望しました。 単なる閉鎖病棟でした。(コロナによる影響だけではなかった。) ホスピス緩和病棟は本来は開かれているはずのところでした。 絶望から怒りにも繋がりました。
或る70代の男性の方が何年も抗癌剤治療得押していた大病院から無理やりこの病院に連れてこられたそうです。 家に帰りたいという事で聞きましたが、せめて孫と一緒にいたいという事でした。 前回の映画の時でも同じようなことがありました。 10年以上たっても人の願いとかは変わらないと思いました。 医療者の願いを叶えてやりたいという思いも変わらないです。 希望とか願い、喜びとか祈りは変わらない。 これをちゃんと映せばいいと思いました。 ありのままを撮ればいいと思いました。
生まれは福岡で育ったのは大阪です。 大坂で新聞記者をやっていました。(警察担当) その後広告制作、映像の制作をやりました。 病棟の映画製作に関わるようになった元となったのが、1995年1月17日の阪神・淡路大震災だったと思います。(後で考えると)その当時は新聞記者でしたが、命に係わる記事について取材をしていましたが、命に関する実感がありませんでした。 阪神・淡路大震災の光景を見て初めて人の死を実感しました。 人の死と向き合うようになりました。 1995年に亡くなった人を調べてみると90万人ぐらいいました。 阪神・淡路大震災では6400人ぐらいでした。 自分の知らない多くの死があることに気付きました。 報道にはならない死を調べてみようと思いました。 死のありようによって残された人の時間が停まったり、そのまま動いていったりして、取材をすることで見えてきました。
5作作りましたが、全部人が亡くなって行きますが、そこには喜びの場所であったりもします。 お孫さんと最後を過ごしたいと言って、寝ているところに何も言わないお孫さんがいても、そこには喜びの空間がある訳です。 この先生に最後を看ていただければ、それで十分だという方もいます。 昭和50年ごろが病院死と在宅死がクロスする時です。 在宅死の時には死が手の届くところにありました。 50年ぐらいの間に病院死が急激に伸びて、在宅死が減ってきて死が見えなくなった。 社会の変容に伴って、終末期は在宅でという流れになってきている。
日本に死生学を広めた上智大学名誉教授でカトリック司祭のアルフォンス・デーケン先生とは非常に仲良くさせていただいています。 デーケン先生は自分が懇意にしているホスピス病棟に子供たちを連れていくんです。 死の準備教育と言います。 62歳になりますが、自分の死についてはなるようになるんだなと考えています。 多くは三人称の死についてだと思います。(自分とは直接関係ない死) ようやく二人称の死を知るようになる。 次に一人称の死、自分の死という風に段階がある。 僕の場合は取材ということでかなりの数があり、自分の死と向き合わざるを得なくなります。 去年10月に母を看取って、自分にとっても大切なものでした。 会いたい人には会える時に会う、行きたい所があれば行く、と言うような事を出来るだけやれるようにする。
ドキュメンタリー映画「近江ミッション願いと祈りと喜びと」が公開されていますが、「ためになりました。」と言ってもらえるよりも「面白かった。」と言ってもらった方が嬉しいです。