鳥海 修(書体設計士) ・「書体はどうつくられるのか?」
鳥海さんは山形県出身の69歳。 長年日本の文化に無くてはならない書体を作る仕事を続けてきたことが評価されて、今年吉川英治文化賞を受賞しました。 鳥海さんは多摩美術大学で活字デザインを知り、書体を作る仕事に入りました。 現在100以上の書体を作っています。 書体の作り方、書体の面白さなどを伺いました。
鳥海と言う名前は「とりのうみ」と読み、山形県の住んでいた30軒ぐらいの村、そこにしかいないんじゃないかと思います。 東京に住んでいましたが、コロナ禍で在宅勤務が可能となり長野県安曇野市に引っ越しました。
日本語の書体は漢字、ひらがな,カタカナ、アルファベット、記号、などを加えると23000字を越えます。 一文字一文字バランスよく統一感を持って作ってゆくというような仕事です。 書体とフォントは違う言葉ですが、書体はデザイン様式と言うか姿を現していて、フォントと言うのは文字のセットのことを言っています。 日本語フォントと言うと漢字、ひらがな,カタカナ、アルファベット、記号があって、それだけの文字セットを作っているという事です。 日本語は漢字、ひらがな,カタカナ、アルファベットなどが文章のなかで混じってしまうので、どういう風にバランスよくデザインするというのが、相当難しいし、世界でもまれな書体です。 それだけに奥が深くて面白いです。
フォントは3000以上4000未満はあると思います。 書物の活字を作ることをメインにしています。 その中に楷書、隷書、行書など多種多様な書体がります。 賞状などは書体によりありがたみがない気がします。 フォントは正方形の中に一文字を書きます。 書道は四角の中に納めるというよりは四角から飛び出すような文字を書きたいので、同じ文字でも表現の仕方が違います。 ラーメン屋などの看板には筆文字系のフォントを使っているところが多いです。 看板こそ手で書いて欲しいと思います。
私が得意としてやってきたのは、読みやすい書体で且つ綺麗な書体を心掛けてきました。 作る時には必ず漢字から始めます。 画数が多いのでめちゃくちゃなデザインが出来ません。 12文字、書体見本を作ります。 それを元に文字を拡張してゆき、漢字が1万4500ぐらいまで増えてゆきます。 それに合わせた平仮名と片仮名をデザインしてゆきます。 漢字に比べて画数が少ないので小さくなり、太くもなります。 次にアルファベットを作って、最後に記号関係を作ります。 それで一つのフォントとしてまとめます。 藤沢周平をイメージしたものを作りました。 なんにでも使えて、安心して使えて、綺麗だという書体が出来たらいいなあと今は思います。 小説とか、印刷して読むという目的に対しては、私は一つでいいんじゃないあと思います。
子供のころはタクシーの運転手になりあかったが、機械が好きで工業高校に行きました。 製図が好きで車の整備士になりたいと思いました。 そのうちに車のデザインをやりたくないました。 美術大学を二浪して入りました。 大学3年の時に文字デザインがあり、或る時先生が毎日新聞社に連れて行ってくれて、一文字だけレタリングしている光景を見ました。 活字の元だと言われ吃驚しました。 案内役を務めた小塚昌彦さんが発した「日本人にとって文字は水であり、米である」との言葉に郷里の風景を重ね、書体制作の道に進むことを志すことにしました。
宮部みゆきさんから「私、ヒラギノしか使わないのよ。」と言われました。 ヒラギノフォントのヒラギノは京都の地名の一つです。 ヒラギノと言う書体は結構尖っているんです。(ヒイラギから来たのかも?) 自分で作った書体は100を越えています。(見分けは出来ます。)
今年吉川英治文化賞を受賞しました。 一人で作ると5年、10年かかるかもしれませんが、4,5人のグループでつくるので、2万3000字を作るのに2年程度で作ります。 魚へんは点が4つありますが、イライラするぐらいめんどくさいんです。 平仮名、片仮名を私一人で作ります。 筆順が変るという事は絶対駄目です。 平仮名には面白さがあります。 平仮名は半分ぐらいを占めるので、平仮名を変えるだけで文章の印象が随分変わります。 平仮名は平安時代に出来た日本独特のものです。 お金は儲からないけど遣り甲斐は相当あります。 今まではきれいな水が流れるような小川の様な書体を作っていたような気がして、大河のような書体を作りたいと思っています。