2024年12月21日土曜日

花谷泰広(登山家)            ・登る文化をつなぎたい

 花谷泰広(登山家)            ・登る文化をつなぎたい

花谷さんは1976年神戸市出身。 現在は山梨県北杜市を拠点に活動しています。 子供の頃から六甲山に親しみ、信州大学進学後はヒマラヤを初め世界の未踏峰、未踏ルートに挑戦、2012年にはヒマラヤの キャシャール南ピラー(6,770 m/ネパール)に未踏のルートから登頂に成功し、2013年に登山界のアカデミー賞とも呼ばれる第21回ピオレドール賞を受賞しました。 この受賞をきっかけに若い登山家をヒマラヤの未踏峰に挑戦させるヒマラヤキャンプを立ち上げ、南アルプス甲斐駒ヶ岳の山小屋の運営や、そこに至る登山道の整備など登山文化を支える活動に力を入れ始めます。 中でも登山道の整備を有料の体験型イベントワークショップとして、参加者を募る試みには新しい発想として注目されています。 人を育て登る化を次の世代にどうつなげるのか伺いました。

36歳の時に登った登山が評価されてピオレドール賞を受賞しました。 そのルートはかつていろいろな有名な人たちがトライしましたが、登れなかったというルートです。 山へ登るパフォーマンスで何か残すとなると、選ばれた人でないとなかなかそれを維持する事は難しい。 僕はそういう人間ではないということが20代から嫌というほど味わってきています。 極限の登山をしてゆくという分野においては、世界のトップと思われるようなパフォーマンスを見ていると、とてもここまでは出来ないと25,6歳のころ感じました。   24時間、365日山とクライミングのことしか考えていないんじゃないかなというモチベーションと集中力という心の部分の強い人たちを見てきています。 僕はそこまでの心の強さの持ち主ではなかった。 

2014年にもヒマラヤに行きましたが、登れなくて自分がどういう事をやりたいのか、考えながらいました。  新しく経験する場、組織が弱体化してきているので、何とか改善したいと思いました。  ピオレドール賞を受賞して大きく変わったことは、プロとして活動できるようになりました。(資金面の充実)  これを生かして何かできないかなあと思いました。 20,30代が初めてヒマラヤに行く機会を作ろうと思いました。  

山小屋を運営する元になったのは、この地域の資源をどう活用してゆくか、という事がありましたが、山は公共の物なのでどうしても行政と絡まなければならない。 僕の前の管理人さんがもう山を降りるという事になり、自分がやってみたら面白いのかなと思いました。  行政とのやりとりの問題も繋がりました。  山梨県北杜市の指定管理業者として甲斐駒ヶ岳の山小屋「七丈小屋」を引き継ぐことになりました。 山の魅力を発信しました。   山小屋、登山道などをどうにかしなければいけないと考えました。  利便性を高める、魅力の発信で人はたくさん増えましたが、登山道は歩きにくくなっていきました。 2019年10月に台風19号がきて、登山道などが物凄い被害を受けました。  集中的な雨も増えてきています。 登山道がなくなってしまうのではないかという危機感、恐怖感がありました。  そこが活動を始めた大きな原点です。 

山の管理について、日本は公的な関与が脆弱な状態です。(外国と比べると一目瞭然。) 予算、人員も少ない。(根本問題)  有料のイベント、寄付を募る、ワークショップを作って回してゆく事を考え実行しつつあります。  登山道が壊れたことによって失われた植生を取り戻してゆく事が一番大事な発想の原点です。(自然環境第一)  作業の意味合いを知ってもらう事が大事です。 ワークショップに来る方は自分でお金を払います。(ガイド登山の一種のようなもの)  クリエーティブな作業で楽しいです。  日本の良くないところはボランティア(無償でやることに対する価値が根強くある。)、運営の中心の人とか技術的な指導者までもがボランティアでやっているのが現状です。 それだと続かないですね。  運営の中心の人とか技術的な指導者にはしっかりとお金がまわるような仕組みを作ってゆく事が大事です。  

自分が関与した山には山に対する見方が変ります。(ホームマウンテンになる。) 持続性に繋がる。 人口減少、高齢化があるので、今までと同じ仕組みでは成り立つわけがない。  発想を根本的に変えていかないと成り立たない。  いろいろな仕組みを変えてゆく事でどんどん良くなってゆくはずです。  日本3大急登で長くて険しい登山道ですが、登山道を修復するワークショップには開始から2年間で200人が参加しています。  今年10月に実施したヒマラヤキャンプでは若手登山家4人と共に、西ネパールの未踏峰6207mのサンクチュアリピークに挑戦、見事に世界初登頂に成功しました。