小森邦衞(石川県立輪島漆芸技術研修所 所長 重要無形文化財「髹漆(きゅうしつ)」保持者(人間国宝))・輪島で、漆人(うるしびと)を育て続けたい 前編
小森さんは昭和20年輪島市生まれ。(79歳) 中学を卒業後、家具職人を経て漆芸の技術である沈金の職人に弟子入りします。 23歳の時に輪島市に出来た漆芸技術研究所の沈金科に2期生として入学しました。 在学中に沈金職人として独立しましたが、再度研究所の髹漆(きゅうしつ)科に入って漆塗りなどを学び、作品を作り続けます。 小森さんの作品は40代になってから展示会で入賞するようになり、2006年61歳で人間国宝に認定されました。 小森さんの故郷であり、作品制作の拠点でもある輪島市は、今年1月に発生した能登半島地震で甚大な以外を受け、9月には豪雨災害が追い打ちをかけるように、大きな被害をもたらしました。
輪島市は日本海に面していて、山に囲まれとても自然が豊かなところです。 1月に地震で建物が潰れたり、傾いたままの状態であったり、輪島市のところどころで解体工事などの作業が行われています。 漆芸技術研修所に飾られている3点を紹介します。 小森さんの作品は朱色の漆が美しい丸い器で、食べ物を入れる曲輪作りで、藍胎食籠(らんたいじきろう)という作品です。
二つ目は蒔絵という技法で作られた箱、黒い漆に金や銀で山アジサイが表現されています。 三つめは沈金という技術で作られた箱で、黒い漆に金粉で竹の林の中を鳥が飛んでいる様子が描かれています。
輪島塗の特徴は大まかに二つあります。 しっかりとした什器、お椀なども堅牢で使い勝手の有るお椀などを作っています。 もう一つは堅牢優美な、しっかりとした模様が付いていて愛でてもらえるような仕事ではないかと思います。 輪島塗は下地も4,5回つけて、それを砥石で研ぎなおかつ、墨で研いでその上に中塗り、上塗りをやります。 漆器は木が多いです。 木体にに塗ってゆくので熱伝導率が低いです。 汁物を入れてもなかなか冷めないし、外には熱さを感じない。
室町時代に輪島には重蔵神社があり、神殿の扉の裏側に銘文があり、輪島の発祥が言われています。 立派な扉を作るにはそれなりの職人さんがいたという証明になると思います。輪島塗は室町時代と言われていますが、鎌倉時代には輪島地方にもあったと思われます。 輪島は漆を塗る、乾燥させるのには適したところだと思います。 地の粉、下地の中に入れる粉で、珪藻土を粉末にしたものを漆に混ぜるわけですが、混ぜながら塗り重ねてゆく事が輪島塗の堅牢になる大きな原因になるわけですが、地の粉が取れたことが、輪島塗の隆盛に繋がったのではないかと思います。 漆は湿度を与えることによって乾いてゆく。 輪島は町全体が湿気に潤う。
漆とは全く関係ない家で育ちましたが、周りは漆関係の家が多かったです。 大工になりたかったが、中学を卒業すると、和風の家具のところに弟子入りしました。 身体が小さかったので体力的には厳しかったので、沈金師のところに弟子入りしました。 動かず胡坐での仕事も大変でした。 4年経って年季明けとなった時に、輪島漆芸研修所が出来ました。 翌年2期生として入りました。 漆に関するいろんなことを教えていただきました。松田権六先生からいろんな話をしていただきました。
研修所終了後作品を作ろうと思って勉強しました。 日本伝統工芸展に出品しましたが、6年連続で落選しました。 自分で作りたいものを徹底的にやろうと思って、輪島塗は分業化されていたので、塗りが出来るように再度髹漆(きゅうしつ)科に入りました。 竹を素材にして竹を編んだものを利用しました。(藍胎) 曲輪の技を利用した技法を考え出した先生からも教えてもらいました。 日本伝統工芸展には40代には受賞するようになりました。
1989年には日本伝統工芸で網代隅切重箱「玄」がNHK会長賞受賞。 50代で曲輪作曲輪造籃胎盆「黎明」で日本工芸会保持者賞を受賞。 2006年「髹漆(きゅうしつ)」保持者(人間国宝)に認定される。
一つ失敗することによって次が見えてくるという事が大事なことだと思います。 私が物を作るということに熱中し始めたら、稼ぐという事があまり頭になくなって、妻も伝統工芸展には先に入選したいたこともあり、生活するという事に関してはお互いに苦労がありました。 作品を作るという喜びに関しては共有出来たと思います。 常に仕事のことを考えていれば、アイディアが切れるという事は無いです。 図案日誌をつけなさいと言う事は、松田権六先生から教えていただきました。
2016年に俳句の句集を出版しました。 自分の作品を作るという事は、自分を見つめ直すことになります。 作品を見ていただいて、批評してもらう事は物つくりとして大切だと思います。 人間が成長するために自己満足だけで作っても決して良くないと思います。
「朝寒や夢の中まで漆塗り」 小森邦衞
集中している時には夢の中まで漆を塗っている時があります。
基本的には朱と黒と金というのは、日本の漆文化の中心になると思います。 好きなことをやってそれで生涯を終えれば、こんな幸せなことはないんじゃないかと思います。 若い時に漆と出会って、人生を迷うことなく歩んでこれたと云う事は幸せなことだと思います。 大震災、豪雨災害があり、家も研修所も被害に遭いましたが、日本全国、海外のご支援等で、輪島塗も立ち直りつつあります、ご支援有難うございました。