2016年11月21日月曜日

金原瑞人(翻訳家)       ・日本語への愛着が翻訳を支える

金原瑞人(翻訳家)       ・日本語への愛着が翻訳を支える
1954年昭和29年岡山生まれ、法政大学大学院英文学博士課程を修了、1998年から法政大学社会学部教授を務めています。
この30年間で共訳や絵本を含めて450冊以上を翻訳しました。
最近はサマセット・モームの「月と6ペンス」や、短編集「ジゴロとジゴレット」の新訳も手掛けています。
日本は翻訳大国だと言われますが、文学書の翻訳は翻訳家にとってそれだでけは、収入面で見ると厳しいと言われています。
翻訳する際の苦労、翻訳家のおかれた立場、翻訳家の将来などについて伺いました。

文庫本などの海外の新訳が目立つ。
翻訳の難しさ、例えばシェイクスピアの作品で、ハムレットは1600年前後に上演されていて、当時の言葉で、今の言葉では古くて、上演する時には古い言葉で上演するがそれを日本語で訳す時にどうするかとか。
日本人が読んでいる物はネイティブのシェイクスピアとは随分違う。
歌舞伎や文楽を現代語でやっている様なものでギャップは大きい。
1600年代では当時は現代語だった。
坪内逍遥、福田恒存、小田島 雄志さん 同じシェイクスピアでも翻訳ものは違っている。
松岡 和子さんが全訳に挑んでいるが、坪内逍遥と小田島 雄志と松岡 和子ではそれなりに大きく変わってきている。
「ライ麦畑でつかまえて」(『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とも翻訳されている)野崎 孝さん訳 村上春樹さんが訳しなおしたが、野崎 孝訳の「ライ麦畑でつかまえて」は当時の日本人が抱いていたアメリカ像がバックにいあるが、村上春樹が捉えているアメリカ像が裏にあって、日本人にとってアメリカ像は時代によって大きく変わってきている。
「風と共に去りぬ」等の古い訳をみると、黒人言葉の訳がいまでは絶対あり得ない様な訳になっている。(それぞれの時代の感じ方が反映されている)

語学はあまりできなかった。
高校は5段階評価で3だった。
仏文、露文、独文全部落ちて、英文科に落ち着きました。
翻訳家になるのではなくカレー屋になるつもりだった。
就職試験に全部落ちて、何をやろうかなあと思っていたが、カレーを作るのが好きだった。
のちに『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』エッセー出版
屋台で本格的なカレーを作ればいいと思って、始めれるようにまではなっていた。
先生が或る日、大学院に来ないかと言われた。
犬飼和雄先生が翻訳をやっていて、翻訳の勉強会をやっていて翻訳の仕事も面白いと思いました。
修士、ドクターを出るころに、最初ペンギンが主人公の「さよならピンコー (心の児童文学館シリーズ)」という可愛い名前の本でした。
子供の本は使う語彙が限られてくるので、子供にも判る言葉できちんと訳すのは難しいと思いました。
中高生を舞台にしたヤングアダルト向けの小説に、はまりました。
昔は若ものはいなくて、子供と大人しかいない時代しかなかった、さらに昔は大人しかいない時代があった、社会の中で誰が中心にいるか、中世のころまでは大人しかいなくて、子供は不完全な大人、近代に入って、学校が出来て、子供という人格が言われるようになってきて、子供と大人の二層構造になってゆく。
1950年代にアメリカで初めて若ものが誕生する。
小学校だけでなく、中学、高校がで来て、大学が増えて若者の層が増えていった。
若者向けの音楽、ロックンロールができて、映画、ファッションが根付いて、子供、若者、大人の三層構造になってくる。
それまでは若ものは不格好な世代と言われていて、若者向けの服が無かった。
彼等は一つのファッションを切り開いてきた。

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は1951年で、ヤングアダルトの作品があったのに出版社はそこをターゲットに本を売ろうとはしなくて気が付いたのは70年代、80年代、その頃僕が翻訳を始めた時代と重なってくるわけです。
日本は明治時代以降、どんどん欧米の文物を取り入れて文学も沢山取り入れ、色んなものを翻訳する国ではあります。
ヘルマンヘッセの全集はドイツ本国よりも日本の方が先に出たと言われた。
ヘミングウェイフォークナー 全集など、翻訳大国と言われる。
翻訳だけでちゃんとやっている人は1割弱でそれも大学で教えながら翻訳している人が多い。
今、訳している人は女の人が多いが、昔は圧倒的に男性が多かった。
ハードボイルドのミステリーなどはちょっと違うと思うこともあるが、作品がその人に向いているかどうかの方が大きいと思う。
年齢によって若者の作品を訳せるのが難しいこともあり、男性、女性ということもあり、共訳の必要性もあります。
「I」 英語の「私」は一つしかないが、日本語はたくさんある。
「僕」、「俺」でもそれなりの色がついてしまう。

面白い本で訳者はだれだったか、を聞いても訳者のことは誰も覚えていない。
表に出たくないと言う人もいますが。
創作ゼミ(分野は広い)をやっていて、4人ぐらいは活躍しています。
原稿用紙200~300枚を書いて来る学生もいます。
金原ひとみ(娘 芥川賞受賞) 半年受講するが、当時は駄目でしたが2年後にはびっくりしました。
「蛇にピアス」で、すばるで新人賞をもらった時の方がうれしかったです。
日本翻訳大賞 今年2年目、注目に値する、是非読んでほしいというものをピックアップしています。
本そのものが読まれなくなってきて、翻訳ものはさらい読まれなくなってきていて、翻訳小説、翻訳文芸はどうなるかこのままいくと心細いが、何れ翻訳ものがおもしろいと思うようになるのではないかと色んな活動をしているところです。
趣味としては三味線、歌舞伎、文楽、骨董、盆栽(もう辞めましたが)。
芝居は好きで18歳で東京に出てきて、いきなりアングラで、それを見始めて、それは歌舞伎や文楽、能の手法をうまいかたちで取りこんで来て見せて呉れる。
それで歌舞伎、文楽にのめり込んでいった。
和だから好きという訳ではなくて、好きなものの一つとしてそういったものが好きです。
翻訳は英語の読解力と日本語の表現力に尽きると思うので、そこから先はシンプルで英語の読解力は今の若い人たちは劣っていると思う、私達の時代は読む読む、書く、いまは読む、書く、話す、聞くの4つを平等に力をてけてゆくと言う事になっていて、翻訳はあまり話せなくても、聞けなくても、良いので、読解力は落ちていることは自覚してほしい。
読むことは意識的に読む時間を増やして、たくさんの本を読んでほしい。
若い人は文法を厭がる人が多いが、翻訳では文法を判っていないと迷ってしまう。
文法は地図だと思っていて、地図があると方向を探す時に役に立つので、文法はしっかり身につけておくといざという時に役に立つ。
語彙力、しゃべる時と書く時では違って、文章で表現するときの語彙を良く覚えてほしい。