2024年11月15日金曜日

舘野鴻(画家・絵本作家)         ・分からないから、突き進む! 前編

舘野鴻(画家・絵本作家)         ・分からないから、突き進む! 前編 

細密画の技法で虫の絵本「しでむし」「ぎふちょう」「つちはんみょう」などを描いて来た舘野鴻さん、一冊の絵本を作るために、長い時は10年をかけて虫の生態と生育環境を調べて、こんな角度から、こんなアップでしかも細密画で描くとほという驚きの絵本を作られました。 今年森の生き物たちを緻密な絵で描いた絵本「どんぐり」で1年間で日本で出版された絵本の中から優れた絵本に授与される日本絵本賞を受賞しました。 絵本の原画展のほか舘野さんは子供たちとの昆虫観察会や講演会、ワークショップや絵画教室を各地で開かれ、忙しい毎日を送っています。  現在56歳、50歳を過ぎてから仕事が楽しくなったという舘野さん、これまでの半生、様々なことに挑戦しながら突き進んできました。 その原動力となっているのが、分からないことを知りたい、分からないから面白いという思いです。 

今は別の用事が増えてきてしまって、描く時間が無いという事が一番問題かなと思っています。 近所に住んでいた熊田千佳慕さんの家へ絵を習いに行っていた母に連れられて通ううち、出入りするようになり絵を学んでいきました。 幼少期はしゃべるのが苦手でみんなと共感するという事が出来ませんでした。 寂しさと劣等感がありました。 だから絵を描くようになったと思います。 小学校の頃にスーパーカーブームがあり、車を描くようになりました。 友達が見ると喜ぶわけです。 「ぎふちょう」を描いていた時の筆は長さ2cm、太さは4,5mmでした。 その先に命毛という細い毛があって、それで1mm以下の細い線が描けます。 線は上手く描けますが点はその筆ではうまく描けません。

「ぎふちょう」に表紙はぎふちょうと他に数種類ありますが、3週間はかかります。 複雑な構造のものをアップで描くとか、という時には考えなしに描くことは難しい。  中学時代、陸上部に入りたいという事で退部する友人に頼まれて生物部に入部することになりました。 中高一貫学校で大学生OBも来るんです。 そうすると一気に世界が広がりました。 そこで出会ったのが「オサムシ」という虫です。 オサムシを見ると日本の土地がどういう風に変化してきたのか、気候が変化してきたのか(地史)が見えてくる。 経験していない事、知らないことが多すぎて、圧倒され恐ろしくなりました。  小学生の頃に両手を見ながら「なんで俺は生きているんだろう。」と毎日思っていました。 

中学の時には虫が好きになりました。 北海道に行ったら金ぴかなオサムシを見ました。  札幌学院大学へ進学することになりました。  友人と3人でテントをもって山に行きました。 大千軒岳と言って砂金で栄えたところで、1630年代の話で隠れキリシタンが住んでいましたが、松前藩に見つかって106人が殺されてしまいました。 山に登ると美しい山でした。 そこで虫を取ることが出来ました。 数えたら106匹でした。 数がぴったり合ったことにびっくりしました。 そこで怖くて虫を取るのをやめました。   死んだ虫、キリシタンに供養しないといけないと思いました。(21歳) 祈りとか弔うとか、そういったことで描いてゆくと決めてしまいました。 

大学は中退して、芝居、音楽などにのめり込んでやっていました。  そこでの仲間にはいろいろ影響を受けました。 文化的なものを一気に学んで行けました。  絵は描いていました。 或る美術家に出会って、君の描いているのは美術でも何でもないと、今まで思っていたことを全部ひっくり返されました。  急に視界が開けた気がしました。(20代半ばから後半)  自分の絵の評価が判らなくて、一回だけ「僕の絵はちゃんと描けているんですか。」と聞きました。  「うん、十分描けているよ。」と一言言われて、凄くホッとしました。

30代を生物調査のアルバイトをしながら絵を描く修業時代になります。 41歳で細密画の絵本「しでむし」を発表。(29歳で結婚、30歳で子供が誕生)   図鑑の中の昆虫の解剖図の話が入りいろいろ描いてその後の絵本の参考になりました。  身体の中の仕組みが判ると、どうしてこういう形をしているのか、どうやって動くのかということが判って来ます。 沢山の虫の解剖をしてきましたが、罪悪感が常にありました。  写真、パソコンの技術が発達して被写界深度に高い画像が合成できるようになって、絵でしかできなかったことが写真が出来るようになって、急に仕事がなくなってしまいました。  編集者から絵本を描くことを紹介されました。  師匠と同じ所へ行くのは厭でしたが、見苦しいとか汚いとかみんなが目をふさぐようなものにこそ、輝く何か大事なものがあるんじゃないか、という思いがありました。 しでむしは死体を餌にする虫で、埋葬虫とも言われている。 どんな汚くても、皆が殺したくなるような虫を、極上に美しく描きたい、それです。