鈴木宣弘(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)・食の安全保障を訴え続けて
鈴木宣弘さんは1958年(昭和53年)生まれの65歳。 三重県志摩市出身。 農水省から学会に転じて、著作や講演で日本の農業の大切さ、食の安全保障を訴え続けてきました。 2022年には食料安全保障推進財団を立ち上げ、理事長を務めています。
講演も月に20回を越えるぐらいあります。 年には200回を越えるような状況です。 日本の食料自給率を上げなければならない。 食料自給率のカロリーベースでは38%ですが、実際はもっと低いのではないかという事を、私は強調している点です。 餌の穀物は2割しか自給できていない。 肥料の原料はほぼ100%輸入に頼っています。 それが止まると自給率は実質22%迄下がってしまう。 野菜の種は9割は海外から運んできている。 野菜の自給率は8割と言っているけれども、種が止まると8%ぐらいしか作れない。 米などの種も海外に9割依存してしまうような流れが強化されている。 鳥の卵も97%自給しているという数字はあるが、餌のトウモロコシはほぼ100%輸入、雛も輸入に頼っている。 それが止まると9,2%という計算になる。 止まってしまうと異常な状態になる。 自分たちの命を守れなくなって来てる。
日本はアメリカの戦後の占領政策で、アメリカの余った農産物を日本人に食べてもらうという事で、日本は農産物の完全撤退を進めることになって、アメリカの農産物がどんどん入ってきた。 米以外の農産物が壊滅していった。 農産物の完全撤廃は受け入れて、日本は自動車などを輸出して、経済をまわしていこうという事が、日本の経済政策の中心になってきた。 食料はいつでも安く輸入できるという事を前提にすることが、食料安全保障であるかのように、考えてやってきた。 それが今は通用しなくなってきたという事が大きな問題です。
「クワトロショック」4つの危機に見舞われている」と主張する。 (1)コロナ禍による物流の停滞 (2)中国による食料の「爆買い」(3)異常気象による世界的な不作 (4)ウクライナ、中東の戦争の勃発
ロシア、ベラルーシは敵には食料を売らないと言っている。 農業インフラの破壊、があり、食料の囲い込み。 インドは米、麦の世界一レベルの生産国だが、自国民を守るために外に売っている場合ではないと防衛的に輸出を止めると言っている。 こういった動きが多くなって30か国ぐらいになってきた。 日本は調達が難しくなってきている。 アメリカでも計算していて、物流が止まったら世界で最初に飢えるのは日本だと、日本で一番餓死者が出ると言っている。(核戦争が起こった場合と言う極端な想定) 世界で3億人の餓死者が出るが日本に一番集中(7200万人)すると言っている。
物流が止まったら、政府は有事立法を作って、強制的に農家に命令すると言っています。 イモ類などの増産命令を課すというような政策です。 普段から支えてゆく政策が出来ていないのに、いざと言う時だけ命令するというのは無理です。 今農家に皆さんの所得がしっかり維持できるようにする仕組み作りをして、食料自給率を普段からしっかり高めておくことが大切です。
1950年農家人口が45,5% アメリカの安い農産物とは対抗できなくなって農家の所得が十分に得られない状況が進んで、離農が進んできた。 車などの工業製品を輸出することで豊かにしていこうという政策をとった。 農業人口が減って、高齢化が進んで68,4歳まできてしまった。 後5年、10年経ったら日本の農業がどれだけ存在しているか。 生産資材のコストが上がってきて、農産物の売値はあまり上がらなくて、更に赤字が拡大している。 農業が崩壊して行くというような実態です。
半農半漁の家の1人息子で、農業も漁業も手伝ってきました。 小学校の4年生の時に乱開発の影響(豊かな自然を壊してしてゆく)を先生が話をしてくれて、自分はどうやって社会を変えていけないか、そういう事に関わって行けないか、考え始めました。 東京大学農学部農業経済学科を卒業し、同年、農林水産省に入省しました。 国際部国際企画課で国際情勢の分析などをやりました。 貿易自由化に対した国内の農業、農村を守るために必死で抵抗していました。 政策を強く打ち出してゆくような余地が減らされてきている。
要領が悪くて、研究所に移動して、アメリカのコーネル大学に行っていた時に、九州大学の先生のところで研究したいという思いがあって、九州大学に採用してもらう事になりました。 1998年の時で学界に転身しました。 ものが片付けられない、朝が苦手、要領が悪い、これは直らないです。 2006年から東京大学大学院農学生命科学研究科教授(農学国際専攻)です。 このまま日本の農業が崩壊して行ったら大変なことになると思いました。 大学では自由な発言が可能になったので、九州大学のころから発信を強めていきました。
日本の農家の所得に対する税金の補助金の割合は3割程度です。 フランス、スイスなどはほぼ100%なんです。 欧米では、命を守り、環境を守り、国土国境を守っている産業はみんなで支えるのはある程度常識なんです。 日本の方が非常識だと考えないといけないのではないか。 2022年に「食料安全保障推進財団」を作りました。 安全・安心な食料を量的・質的に国民に常に確保するための生産から消費までの国民全体のネットワーク強化、食の安全性の「可視化」、及び必要な政策を実現するための活動を推進することを目的とする。去年1年間で40を越える場を財団が作り出しました。 食の安心安全という事で、耕作放棄地を女性の方々が借りて、子供たちを含めてやってくれる、そういった動きもあります。 地域の皆さんが農家の皆さんを支えるとともに、自分も地域の農業生産に関わるような仕組み作りを広げて行こうという声が、強まってきています。
地域の有機農産物が学校給食にといり入れられている事は、大事な核になると思います。 地域で食料が循環できる仕組みを作るというのは、非常に大事な核になると思います。 農家が減少してゆくなかでどう支えるか、国レベルの政策も大事ですが、地域地域で地元の皆さんを支えてゆくような、ローカル自給圏を作る事によって、消費者と生産者が一体化してゆくことを広げる事が重要になってきている。
直売所では農家の小遣い銭稼ぎにしかならないと言われてきた。 それを打ち破ったのが和歌山県の野田モデルです。 中間流通を通さずに作物を広域で販売する『野田モデル』という仕組み。 地域の直売所を転送システムでつないで、一気に沢山の店舗で品物が売れるような仕組みです。 1億円売れるような直売所が確保できたり、1000万円緒以上売り上げるのが300軒ぐらいになってきています。 そうすると農家の所得を画期的に引き上げることができる。 農家に価格決定権があるのが大きい。
講演にも増えてきて、沢山の方が関心を持ってくれるようになりました。 「食料安全保障推進財団」も、皆を支えるためには、もっと何が出来るか考えていかなければいけないと思います。 不測の事態のリスクが高まっている中で、国民の命を守れるように準備するという事が「国防」と定義するならば、国内の食料を守る事こそが、日本にとっての一番の「国防」、「安全保障」の要だと思います。 循環型食料自給圏を各地で作て、それをベースにして広げてゆくことで、日本の農業、農村、自分たちの食料、健康を守って行けるように一緒に頑張りましょう、という事を呼び掛けたいと思います。