宮崎恵理(スポーツライター) ・【スポーツ明日への伝言】希望の人・パラアスリートを見続けて
パラリンピックの見どころ、注目の種目、選手について伺います。
出版社勤務を経てフリーのライターになった宮崎さんは、1998年長野パラリンピックを機に障害者スポーツの取材に携わり、雑誌などへの執筆活動を続けて、2012年ロンドン、2014年ソチパラリンピックではNHKの開会式の解説者を務めました。 2016年のリオデジャネイロパラリンピック以降はNHKのホームページでコラム「パラアスリートの流儀」を連載し、その回数は50回を越えています。
オリンピックでまず感動したのが、フェンシングのエペ男子団体の金メダル、エペはどこでもいいから早く突いた方が勝ちという事で判りやすくて、これから人気が出るのではないかと思います。 スケートボードのストリート種目でフィリピンの選手が決勝まで残るが、トリックの3回目から5回目まで全部失敗してしまって、最後に失敗してもものすごい笑顔で「大丈夫」と言って、そのあとに日本語で「ありがとう」と笑顔で言ったのが、私は物凄く心をつかまれました。 これこそオリンピックらしいという感じがしました。 国籍、人種とかを全部超越してみんなが楽しみながら競技をしている感じが伝わってきた競技だったと思いました。
1990年代に目の見えない人のスキヤーのガイドを募集している新聞記事を見て、ボランティアで応募して一緒に滑る中、目の見えない人のパラリンピックがあって、興味深い話を伺いました。 その活動の最初が1998年の長野パラリンピックになります。 手探りで選手を発掘することからスタートしたというゼロからのスタートでした。 取材を始めましたが、選手がそれぞれ熱い気持ちをもって頂点を目指す姿を見るにつけ、ぜひ記事にしたいと思いました。 私が知っているスキーとは違って工夫がされている。 工夫にも興味深いところがありました。 新田選手は当時岡山県にいて長野パラリンピックの前年に電話をして取材しました。 将来的には僕のように片腕であっても、スキーができるんだという事を自分がスキーをやることで広く伝えていきたいという事を高校生の時に発言しています。 私が伝えてあげなければという思いがありました。 彼は来年の北京を目指して頑張っています。
夏のパラリンピックもいろいろ面白い競技があると長野パラリンピックのあとに教えられました。 2002年に北九州市で車椅子バスケットボールの世界選手権が開催されました。 取材に行ったときにこれは凄いスポーツだと、格闘技だと思いました。 台風の中、大接戦をたくさんの方が見に来て満員で、あふれた方はパブリックビューイングで見ていました。 北九州市の素晴らしい市民スポーツになったと思います。
テニスでは2004年のアテネパラリンピックに取材に行った際に、国枝慎吾選手がシングルスは準々決勝で敗退しましたが、ダブルスでは金メダルを取りました。 国枝慎吾選手の凄さに心をつかまれました。 障害者スポーツと言われているものもやはり同じくスポーツであるという共通点が一番大きな根底にあったという風に感じています。 20年ぐらい障害者スポーツと向き合ってきたなかで、何故障害者スポーツに心を惹かれるのかを考えた時に、障害の内容は全く同じ人はいなくて、選手個人個人が個別の工夫をして、自分なりのトレーニング方法を開拓したり、義足、車椅子などを調整したりして、努力する過程を見てきている中で、そういう部分をお伝えしたいという気持ちが大きかったと思います。
障害者は障害を受けた時期も違うし、原因(先天性なのか人生の中途でか)も違うし、オリンピックの選手のようにシステムでは作れないものです。 すべてが個別で、個人の工夫がより一層際立つと思います。 技師、義足装具士とか、トレーナー、コーチなどの存在なくしてはやはり競技は成り立たないという事が背景にあるので、そういう人たちの連携がとても大きいと思います。
国枝慎吾選手は王者奪回というか、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみです。 義足の走り幅跳びの選手でドイツのマルクス・レームという選手がいます。 彼は今年の6月に自己世界記録を更新する8m62cmという世界記録を出しています。 今回ギリシャの人が金メダルを取っていますが、記録が8m41cmです。 注目してほしいと思います。 車椅子ラグビー、日本が強いです。 5人制サッカー(ブラインドサッカー)、今まで日本は出場できていない、今回が初出場です。 5月に東京で行われた国際大会で、世界ランキング1位のアルゼンチンに決勝で戦って、惜しくも敗れました。 今回予選リーグでは強豪のブラジルがいます。 佐藤友祈選手は陸上400m、1500mで世界記録を持っている選手です。 リオでは銀メダルでしたが、世界記録を自分で更新してきている選手です。
クラス分けが多い競技は陸上と水泳です。 障害の程度、種類、障害の原因などの違いによってクラス分けがあります。(公平性)
パラリンピックはいろんな障害のある人たちが、そこに集ってクラス分けなどありますが、そこでスポーツを競い合う、そこに大きな多様性が見られる。 一番はやはりスポーツとしての醍醐味を何より伝えていきたい、という事が大前提にあります。 選手は夢や感動を与えたいといいますが、私は夢や感動を伝えたいと思っているわけではなく、受け取る側が感動したと思うのかどうかだけ。 私は努力してきたプロセスと共に、こんな選手がいる、こんな大会、試合がありましたとお伝えすることで、いわゆる媒介をすることを基本としていきたいと思います。 障害は乗り越えるものではない、障害は捉え方が違うし、受け入れ方も違うし、向き合ってゆくものではあるかもしれないが、乗り越えるものではないという事だと思います。 今ある身体をどういう風にして自分が受け入れてそれを工夫してゆくかというところが障害者スポーツの本質ではないのかなあと感じていて、選手の工夫を伝えて行きたいと思います。