室伏広治(スポーツ庁長官) ・【スポーツ明日への伝言】ハンマー投げの鉄人が目指すもの
室伏さんは陸上競技ハンマー投げの選手として日本選手権に20連覇オリンピックには四回出場して2004年アテネ大会で金メダル、2012年ロンドン大会では銅メダルを獲得しています。 現役選手引退後は東京医科歯科大学教授でスポーツサイエンスセンター長、東京オリンピックパラリンピック組織委員会のスポーツディレクターも務めてきました。
書を毎年チャリティーで書かせてもらっていますが、今年の書道展はやりませんでしたが、文部科学省前で私も初めて色紙に「一心不乱」という文字と絵も描いていて、ハンマー地蔵のようなものを描きました。 一投一念という信条で、一つ一つ気持ちを込めて取り組んでゆくことに道ができてくる、そういう信条です。
身体を動かすだけではスポーツも上達しないのではないかと思います。 精神を集中させたりとか、そういうものが自然にあらわれるのが書道だと思って、スポーツで疲れた心を癒してくれることがあると思います。
ハンマー投げはイギリスが発祥の地で、イギリスはいろんなスポーツの発祥の地でもあります。 貴族がハンマーを投げて競ったという事もあります。 重さが7,26㎏の球でワイヤーとハンドルがついていて回転しながら、回すという事なんですが、80m投げるときには350㎏ぐらいの張力が働きますが、投げる瞬間にうまくいくと全く重さを感じないという、自分が飛んでゆくような不思議な感じがします。 いかにして遠くへ投げるか、これを追及してゆくスポーツです。
父は日本選手権10連覇、アジア大会5連覇でしたが、父が引退するのが41歳のときでしたが、父のそばにいて生まれたときからハンマー投げは知っていました。 3歳ぐらいの時に父が発泡スチロールで作ってくれたものを回していました。 小学校では3kgで投げた記憶があります。
会心の一投はそんなにあるものではないですが、経験を重ねていくほどそれに近いものが出せてきますが、体力は若いほうがあります。
私が引退する最後まで父がフィルムを撮り続けてくれました。 父は一日12時間投げ続けて誰にも負けないトレーニングをしたが、やれば記録が下がっていっておかしいという事で、練習を取りやめて、8mm、16mmフィルムで撮って、それを見たときにひどい動きをしていたことが判り、フォームを改善したところ、記録が伸びていった。 息子にも遠回りをさせまい、無駄な努力はしないようにという事で、客観的に自分を見なさいという事で撮ってくれていました。
2000年シドニーオリンピックでは雨の中でやりました。 雨の中で投げたことはなかった。 ポーランドのシモン・ジョルコフスキ選手が「浩司 お前は雨で投げるのが好きか」といって、考えている時に「俺は雨でもベストを投げたんだぞ」と言って、そこで前向きに考えることが出来れば、もしかしたら結果も違ったのではないかと思いました。 苦い思い出が最初のオリンピックでした。
2004年アテネ大会で金メダル 地元選手が出場する400mハードルと重なってしまっていて、スタジアムが声援で地響きがするぐらい大きくて、どうやって集中させるか考えて、寝転んで星を見つけていて、その時にスタジアムのことを忘れていて、最後の投擲(とうてき)になりました。 金メダルを取った選手がドーピングになり金メダルを貰う事になりました。
その時に日本の記者団に或る詩を配りました。(メダルの裏に書いてあった詩)
「真実の母オリンピアよ あなたの子供たちが競技で勝利を勝ち得たとき、永遠の栄誉、黄金を与えよ それを証明出来るのは真実の母オリンピア」
アスリートは人生をかけてやるつもりでやった結果なので、それは金であろうと、銀であろうと一所懸命やった努力に関しては変わらないんだと、自分で書いて皆さんに渡しました。
一緒に試合をしてきた仲間からドーピングをしたのは本当に残念につきます。 スポーツは神聖なものだと思うのでそんなことが無いように取り組んでいるところです。 様々な新しい形でドーピングがあったりします。 これは警察と泥棒の関係であるのが 私は問題がある思っています。 アスリート自身も不正をしないんだとみんなが一体になって取り組まないと撲滅できないと思います。
アテネ大会は30歳の頃で、2011年世界陸上で金メダル、2012年のロンドンオリンピックでは銅メダル。 36歳、37歳の時でした。 苦労して取ったメダルなので本当にうれしかったです。 体力の限界でした。 怪我をしやすいし、怪我をすると治りにくいという事でどう調整するか難しかった。 2005年アテネ大会の翌年ですが、反復性疲労と言って同じ所だけ使って疲労に結び付く。 2005年は休息にあてました。
研究は後に回すとするとやらなくなってしまうので、やれる時にやろうと思って、スポーツを科学するという事で2005年から2007年で博士号を取得しました。
スポーツバイオメカニクスは分野が応用スポーツ科学で、運動の解剖学、力学、生理学とかを組み合わせて、どういう運動のメカニズムになっているのかを解明するのがスポーツバイオメカニクスで、スポーツもそうですが、怪我のリハビリ、シューズ、ウエア、スポーツ工学とか、従業員が効率よく疲れずに運動するにはどうしたらいいのか、そういった様々なところに応用科学と言いますが、スポーツバイオメカニクスで、私はハンマー投げの研究を最初の頃やっていました。 身体をどう保ってゆくか、スポーツを通してよりよい生活が送れるように、生かせていけるように取り組んでいるところです。
「成功体験が邪魔をする、失敗体験が人を大きくする。」 成功体験すると次のチャレンジを恐れるようになったりする。 満足感のせいでこれでいいんだと思ったりしてしまう。 失敗体験は人を大きくする。
カヌーの羽根田選手が「スポーツをやっていると全てを忘れて没頭できる、こんな贅沢なことはない」といったことに感動しました。 一心不乱とはその様なことかと思います。
スポーツの行政という立場で、皆さんにためになるようにスポーツが社会にすこしでも貢献できるように取り組んでいきたいと思います。 自粛化のなか新聞を片手でつかんで丸めて手の中に収めて行く、これを7セットやると握力などに非常にいいと思います。